行政書士の独り言|部分最適思考の落し穴と全体最適思考の重要性

部分最適と全体最適

 

みなさん、こんにちは!
運送業専門行政書士の齋藤です。

早速ですが、質問です。

日々の判断で
「目の前の問題を解決すること=良い判断」
だと捉えていませんか?

もちろん正しいです。
でも、それが「部分最適」にとどまると、
一時しのぎにはなるけれど、
会社全体としての成長や資金繰り、
組織文化などではむしろマイナスになることがあります。

今日は、部分最適思考の危険性を掘り下げ、
「全体最適思考」
で判断することがなぜ重要かということを考えてみましょう。

部分最適思考とは何か?なぜ人はそうなりやすいのか

部分最適とは、一時的なコスト削減だけをしようとしたり、
木で例えるなら枝葉の部分しか見ずに
「そこさえ良くなればOK」
とする思考や行動のことです。

例えば、以下のような状況で起こりやすいです。

  • 短期的な利益やコスト削減を重視する場合
    「今月コストを削れば利益が出る」「燃料を少し節約すれば利益が出る」など。

  • 経営資源(お金・人手・時間など)が限られている中小規模で、部分的な改善が目に見えやすい場合
    ルート変更、運転手の勤務形態、車両数の見直しなど。

  • 補助金・助成金等、外部から“お得”に見える話がある場合
    「ただで貰える補助金があるらしい」などの魅力的に思える話。

  • 現場からの要望・現場の声に引っ張られる場合
    「現場が言うから夜勤体制を増やそう」など、現場の意見だけで判断してしまう。

どうでしょうか?
パッと見た感じ、どれも悪いことではなさそうですよね。

そうなんです。
部分最適思考自体は、悪ではありません。
「部分」を改善していくことも必要です。
ですが、それだけに注力すると、
“会社全体でどうなるか”“長期的にどう影響するか”
という観点が抜け落ちることが多いのです。

 


部分最適が招く具体的な落とし穴

以下は、中小運送会社でよくある、“部分最適判断”による失敗例です。

補助金目当ての設備投資

 例:ある会社が「補助金でトラックの燃費改善装置を導入できる」
という話を聞き、「ただ補助金があるから」という理由で導入。
しかし、導入後に以下のような問題が発覚:

 ・設備のメンテナンスコストが年間予想より高くついた。
 ・燃費改善の効果が見込んでいたほどではなく、回収期間が長期化。
 ・資金の借入や補助金申請にかかる手間・人件費がコストになった。
 ・その分他の重要な経費(運転手教育、車両整備、人件費見直しなど)への投資が圧迫された。

  → 結果として、全体のキャッシュフローが圧迫され、
その年の資金繰りが苦しくなり、借入返済や税金支払いで苦労する。

ルート毎の短期コスト削減のみを重視する判断
 例:燃料費を削るため、遠回りを避けて荷物をまとめるルートに切り替え。
しかし、荷物をまとめるための待機時間が増えたり、
荷主からの急な依頼に柔軟に対応できなくなったりして、
結果的には売上単価と共に信頼も下がってしまった。

人件費・賃金アップのみを考えていたが、全体最適を見ていなかったケース
 例:運転手の賃金を上げて、確かに従業員満足は上がったが、
賃金アップの原資となる利益の確保策を同時に行わなかった。
結果、当然ながら、利益率が下がり、維持するのがやっとになってしまった。

固定費の過剰な増加
 例:とりあえず目の前の仕事に対応するだけのために運転手を増やしたり、
3~4台しか稼働しないのに営業所を新設したり、ムダに最先端の設備を購入したりという判断を
「とりあえず目先の判断」
という思考で行った結果、
   営業所を維持するだけの費用だけが増え、負荷だけが重くなったり、設備を使いこなせず、
費用だけが垂れ流されるという結果になってしまった。

 


全体最適思考とは何か?どのように育てるか

全体最適とは、会社全体の利益を最大化する視点で、
投資・コスト・売上・人的資源・時間・機会などを総合的に判断することです。
全体最適思考を育てるためのポイントを以下に示します。

  1. まず目的と戦略を明らかにする

    • 「この会社は5年後にどうなっていたいか」

    • 成長率をどう確保するか、収益性をどこまで上げるか、車両数・ルート網・人員構成はどうするか。

    • 補助金・助成金などの外的インセンティブは、戦略に合致するものかどうか。

  2. 投資や改善の前に必ず“全体シミュレーション”を行う

    • 投資するための資金はあるのか?融資なのか、自己資金から出すのか?
    • 投資によるコスト(初期費用、維持費、メンテナンス、人件費など)と、
      それによる利益またはリスクを、売上・キャッシュフロー・回収期間などで数値化する。

    • 複数シナリオを比較(例えば、補助金あり/なし、燃費改善装置の効果高/低など)。

  3. KPI(重要業績評価指標)を会社全体で設定し、部分と全体を結びつける

    • 例えば
      「一車両あたりの稼働率」
      「荷主別利益率」
      「回収期間」
      「前月比キャッシュフロー」
      「固定費比率」など。

    • 各改善案がこれらKPIにどう影響するかを評価する。

  4. 判断する前に現場・関係部署の声を集める

    • 運転手、配車や運行管理部門、経理部門、整備部門など、
      多面的な視点からコスト・利便性・リスクを見極める。

    • 整備系の設備や最新のシステム等は、使いこなせるか?
      メンテナンス頻度が増えるか?人員は確保できるか?など。

  5. 改善・投資だけでなく“捨てること”も視野に入れる

    • 運賃(利益率)の低い案件をやめる、
      非効率な車両、維持費のかかる車両を減らす、
      1人1車制を辞め、昼夜で2回転させる
      稼働率の悪いルートを整理するなど、
      資源を集中する判断。

  6. 定期的な振り返りと見直し

    • 投資の結果を定期的に検証する。
      予測と実績の乖離があれば改善プロセスを取り入れる。

    • 戦略・目標が変われば判断基準も変える柔軟性を持つ。

 


なぜ中小運送会社に全体最適思考が求められるのか

中小運送会社には次のような特徴があり、
部分最適思考のままでは致命傷を負うことがあります。

  • 資金余力が限られている
    大きな会社のように資金繰りの余裕が少ないため、
    誤った投資判断や部分的なコスト増がすぐに収益に影響する。

  • 人的リソースが限られている
    管理部門、人材確保、現場の柔軟性などに余力が少なく、
    部分改善を積み重ねてもその先の全体最適につなげづらい。

  • 競争・規制・燃料価格変動など経営環境の変化が激しい
    外部ショックに備えて、会社全体としての耐性、
    キャッシュフロー、戦略の柔軟性が不可欠。

  • 信頼・ブランド・長期取引関係の重視
    荷主や運転手、取引先との信頼関係が大きく事業を左右する。
    部分最適の判断でこれらを疎かにすると、その後の成長機会を失う。

     


全体最適思考を取り入れた判断の具体例

以下は、全体最適を意識した判断をして成功した、
または成功の可能性が高いケースの例です。

  1. 補助金活用の判断を戦略に照らして行ったケース
    ある会社は燃費改善の設備について、補助金が使える案件に注目。
    しかし、全体最適視点で以下を検討した。

    • 装置の導入コストと維持コスト → 燃費改善によるコスト削減はどのくらいか?

    • 回収にかかる期間 → 数年かかるなら、その間に借入金利や車両老朽化リスクが増す。

    • その資金を別の改善(例えば稼働車両の増加、運転手教育、荷主の開拓)に使ったらどうか。
      比較シミュレーションの結果、補助金+燃費装置導入案は導入したが、
      それ以上に荷主別利益率の低い契約の見直しと稼働率アップ施策を
      同時にやる方が資金効率が良いと判断。
      結果として、燃費改善+稼働率アップでキャッシュフローが安定し、
      初期投資の回収も予測以上にスムーズだった。

  2. ルート整理と車両再配置の判断
    遠回りや空車走行が多いルートを洗い出し、
    部分最適思考では
    「そのルートだけコスト削減しよう」
    だったが、
    全体最適では
    「ルート網全体を見直して車両配置を最適化」
    「長距離と近距離を組み合わせて回送を減らす」
    「荷主との協力で荷物をまとめる」
    などの施策を複合的に取った。
    これにより燃費・人件費・車両維持コストすべてで改善が見られた。

  3. 人員増強と賃金増・利益率のバランスを取ったケース
    「運転手不足だから賃金を上げる」だけではコスト負担が増える。
    そこで全体最適思考で
    「賃金を上げると同時に、運賃交渉力を強化する」
    「運賃が安い取引先(低利益案件)を整理する」
    「運行効率を上げて一人当たりの売上を増やす」
    という三本柱で施策を打った。
    結果として、運転手の満足度も上がり、車両の稼働率・利益率も改善した。

 


部分最適を超えて、全体最適による強い運送会社をつくる

運送会社経営において、部分最適だけに目を奪われると、
見た目にはコスト削減や一部の改善ができているように見えても、
資金繰り・利益率・運転手満足・荷主との信頼といった
会社の土台がゆらいでしまいます。

一方で、全体最適思考で判断できる会社は、以下を実現できます:

  • 長期的にキャッシュフローが安定する

  • 資金を有効に使い、無駄な出費を抑える

  • 投資回収が見込める施策を選び取れる

  • 変化環境に対応できる柔軟性と強さを持つ

中小運送会社の社長にとって、「部分最適」が悪いわけではありませんが、
それだけで経営を進めるのは大きなリスクを伴います。

まずは、自社の戦略・目的を再確認し、それに基づいて投資・改善の優先順位をつけ、
“全体最適”を判断基準として据えることを強くおすすめします。

ただし、これらのことは、自分で言うのも変ですが、
文章にすれば簡単ですが、
実際にやろうとすると、とても大変です。

もしよければ、貴社の現状をヒアリングさせていただき、
「全体最適思考」での具体的な改善案を一緒に設計することも可能です。
お気軽にご相談ください。

それでは、今回はここまで。
最後までお読み下さいましてありがとうございます。

またお会いしましょう!

 

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